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「食え。俺と半分コだ」
しゃがみ込み、視線を合わせて、涙と鼻水とヨダレで小汚くなっている少女の顔をぐいと拭い、パンと肉を握らせた。それから焚火の前に戻り、残った半分に齧りつく。
泣き顔のまま呆然とするミーナは持たされた肉とパンを見つめ、戸惑い半分、それらを小さく口に運ぶ。
「……、おいしい」
その言葉が最後、ミーナはアグニに渡されたパンと肉を懸命に齧りながら、それを飲み込んでは父と母を呼んで、咽び泣いた。
それは、痛みさえ感じてしまいそうな泣き声だった。
それでもアグニは、その声を聞いていた。
声もかけず、手も握らず、見てやることもしなかったが、静かに聞いていた。
半分コにした肉とパンを食べながら、ただ、そこに居た。
昼食をとり終わり、火の始末をしたころには随分と日も傾いて、このままおやつでも食べるには時間的にちょうどいいくらいの時間がたった夕方前。泣き疲れて眠る、口元にパンの欠片をくっつけた少女を一瞥したアグニが、ため息に似た長い息を吐き出すのはきっと、少なからず後悔をしているからだ。
(手ぇ、出しちまった。旅暮らしの俺が、何やってンだ)
後悔の正体は明らか。『無闇矢鱈と命に係わるな。手を出すなら最後まで責任を持て』。育ての親ゴトー・マッフェの教えが、アグニをアグニ足らしめているからだ。
猫や犬でも面倒を見切るのは大変だというのに、相手が人間で、暗殺者に追われていて、自分が旅暮らしで、そのうえ相手が女の子なら、頭だって抱えたくなる。
はっきり言ってしまえば、ゴトーが言っていた『最後まで責任を持つ』というのがどこまでなのかが分からない。どこかの町の自警団にでも預ければ面倒を見たことになるのか、それとも安全がきっちりと確保できるまでなのか。まさか、自分を育てたゴトーの様に、本当の意味での『最期まで』なのか。
「けったいな事を教えてくれたよな。ゴトーの親父はよう」
ぶはあー、と口から後悔という固形物でも吐き出すような息を吐き、しかし悩んでいても仕方がない事を知っているアグニは、痒くもない頭をバリバリと掻いて立ち上がった。
名前も知らない少女に近づき、こつんと綺麗な髪が覆う頭を軽く蹴る。
「おい、いつまで寝てる。置いてくぞ」
すると少女は、ほどなく答えた。
「……、おいてけばいいじゃん」
「なんだ、起きてたのか」
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