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「だから、違うって言ってるじゃん! アグニのおたんち――」
ミーナが怒りながらアグニに顔を向けた、その時。
「だから、いまはこれで勘弁しろ」
不意を突いて、アグニはミーナの額に唇を付けた。
ひぅっ! と息を詰まらせたような声がミーナの喉から零れ、螺子の切れたブリキ人形の様に体が固まった。
ミーナを置いて再び樹の洞から抜け出すアグニは、溜息を誤魔化す為の深呼吸をする。
「さて、飯だ、飯っ。ミーナもさっさと出てこい。次の町まではもう――」
そして、用意した肉やパンを食べようと焚火の所へと戻ろうとした、そのときだ。
「――おあッ!」
突然、アグニは後ろから押し倒された。後ろを振り返って見れば、目の前にはミーナ。
「……アグニが、悪いんだからね? あたしは、我慢してたのに」
さらによく見れば、その眼は狂気に近い煩悩で染められていて、うまそうな料理を目の前にした時の様に涎まで垂れている。ある種の危機感にアグニの頬が引きつった。
「おま、いつの間に抜け出てきやがった……おい、こら、まて。自分のショートパンツに手を掛けるな。今は朝だ。早まるんじゃねぇ、オコチャマン」
「うっさい。あたしはオコチャマンじゃない。今から朝ごはん食べるんだもん」
「意味が分からねぇよ。朝飯はパンと肉だ。俺じゃねぇ」
「そうだね、肉だね、ミート○ティックだねっ」
「破廉恥極まりないな、このバカヤロウ」
アグニは自分の上で猟犬の様にぐるぐるハアハアと息を荒げるミーナを見やって、
(やべぇ、なんか変なスイッチ押しちまったらし ―― ッ!)
『シャルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!』
瞬間的に、強烈な死の臭いが辺りを飲み込んだ。
直後、長さ五センチ程の吹き矢の矢じりが、殺意を振りまき迫ってくる。
アグニは倒れたまま思いきり地面を殴りつけた。巻き上がる土塊で矢じりを弾き、咄嗟に覆いかぶさっているミーナを押し上げる様に背の高い草むらへと蹴り飛ばす。ぐえっ、と潰れたヒキガエルの様な声が聞こえたが、まあ怪我はしていないだろうと楽観的に考え、周囲を警戒しつつ起き上がった。
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