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 ポケットから取り出し装備するのは、拳部分がオリハルコン仕立てになっている黒い鞣し皮でできたフィンガーグローブ。両手の甲に刻まれた純銀製の魔法陣である〝討伐の紋〟に魔力が通い、深紅色の〝アウラ〟という、魔力の個人特性を視覚化した光に包まれて攻撃力が増強された(ちなみに赤系統である深紅色は攻撃力強化に特化している)。 「ミーナ、平気かー?」 「あぅ~……痛いよ、アグニのばかぁ~」 「悪いな、急だったからよ。なに、ちょっとそこで待ってろ。すぐに片付け……」  どうやら返事が出来る程度は無事らしいことを確認したアグニは、ほっと息を抜きながら敵を見やって――言葉が止まった。 「おいおい、こんな所でアンデッド族か? こんな気持ちのいい朝っぱらから」  視線の先、下草を割って這い出てきたのは、哭竜(ハウリングドラゴン)と呼ばれる竜族の死骸だった。  だからアグニは考える。  本来、哭竜(ハウリングドラゴン)は森に生息する生き物ではない。火山地帯の荒涼とした土地に住みつく全長三レートルほどの小型のドラゴンで、草木が萌えるこのような場所で生活することはないモンスターだ。もしドラゴンの死骸に死霊が取りついてアンデッド化したのだとしても、命が溢れるこの森で出会うには条件がおかしいはずなのだが。  そこで気づく。ドラゴンの空洞になった眼窩のなか、多数の小さな眼がぎょろぎょろと蠢めいていることに。 「なんだ、そうか。竜の骸を被る者(ボーンドラゴンライアード)か。こんな場所でエライもんに出会ったな……」  途端にニヤリ、とアグニの口角が持ち上がった。  それなら喧嘩になると言いたそうな顔で。  けれど普通、竜族に喧嘩を売る人間はいない。  理由は単純で〝強いから〟。世界に認知されている竜族の中で一番弱いとされる種類であっても、アグニが一人で勝つなんて奇跡だ。  しかし、いまアグニの目の前に居るドラゴンは、もう既に生命力を使い果たし、他のモンスターにその死骸を弄ばれているだけの存在だ。魔力が無ければ腕力も残ってない。  ならば、喧嘩士であるアグニが喧嘩を売らないはずがない。  しかも、ドラゴンの部位はどんな種類の物であれ、売れば結構な金になる。  アグニは固く拳を握って、凶悪な表情を顔面に張り付けた。
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