第三話

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 近衛師団長であるジョイズ・モントレーは、少女に膝を貸すアグニを見て一人思った。  その当人であるアグニにといえば――。  雲のない、突き抜けた快晴の空を踏みしめて疾駆する巨体のグリフォンと、それが引く荷台の周囲を囲うシャボンの様な膜を興味深そうに眺めながら、溜息をついていた。 「なあ、巨人のおっさん。コレ、なんだ?」  王国騎士の長に対して、あまりにも気兼ねなく話かけるアグニ。  自分の強さに自信があるから相手を馬鹿にしている、訳ではない。その程度でいきり立つ様な自尊心の塊しか持っていない器の小さな相手なら、ミーナの過去を調べるうえで邪魔でしかないから、ヘルズネクトに着いてすぐ別行動をとろうと思っただけだ。  しかし、相手は王国の近衛師団長。アグニのような若輩が試す必要など微塵もない。 「空を移動するという経験は初めてか?」 「前に一度、ペガサスに。けど、そのときはこんなシャボン玉はなかったな」 「ペガサスは心の優しい生き物だ。背に乗る者を振り落さんように空を駆ける」  だがグリフォンは違う。とジョイズ・モントレーは続け、シャボンの天蓋にあたる部分を見上げた。 「これは風防障壁と(ふうぼうしょうへき)いうものだ。この荷台を造る際に、あらかじめこの魔法をいつでも使える様、板と板の内側に魔法陣を彫り込んで作ってある。これがなければ、こうして我々が乗っている荷台などグリフォンの膂力に耐え切れずに粉微塵になっていよう。例え荷台が無事であっても、我らの方が振り落されている。グリフォンとは、そういう生き物だ。下を見るがいい」  アグニは首だけで振り返り、眼下を覗く。 そこには、グリフォンが生み出す速度によって、景色が線の様に流れる光景があった。 「うへぇ~。こりゃすごい」  高空から空を見上げるという普段は出来ない経験に、下など見もしなかったアグニの口元が奇妙に引きつった。周りを見れば、同じように飛んでいる参加者たちも、今のアグニと同じような顔をしている。 「落ちればただでは済むまい。気を付ける事だ」 「そうする」  アグニは素直に首肯して、首を引っ込めた。    
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