第三話

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 そのとき、ふと自分の膝を枕代わりに眠るミーナの顔が目に入った。何とも幸せそうに涎を垂らす顔に、つい悪戯心をくすぐられる。  別に何がしたかったわけではない。不意の瞬間というやつだ。  だから、鼻をつまんだのだって何の気はない。 「ん……」  最初の数秒こそ普通の顔をしていたミーナ。  けれど、だんだんとその表情が苦しそうなものになり、 「んん…………っう」  しまいには、顔が真っ赤になった。 「口で息すりゃいいのに」  呟くアグニは、これ以上やったら可哀そうだという所で指を放してやる。  途端、「へちっ!」とくしゃみをして、ミーナは丸まった手で猫の様に顔をこすった。 「はは、変な奴」  ミーナの行動に悪戯心を満足させ、鼻から息を抜いて再びその頭を覆う髪を撫で始めるアグニ。人前でこういうことを平気でするから『仲が良い』という雰囲気が染み付き、国営商会のマグティーノやルターナに勘違いされるのだが、アグニには分からない。そんな、ナチュラルにいちゃつくアグニに、ジョイズ・モントレーが声を掛けた。 「一つ、聞きたい」  アグニは撫でる手を止めずに「ん?」と片眉を上げて見せる。 「お前たちは何故、この作戦に参加した?」 「……。何故って、そりゃあ」 「我の見る限り、富や名声を求める為という訳ではないように見えるが?」  先に二の句を潰されてしまい、アグニはむぐっと言葉に詰まる。 「広場でも言ったはずだ。この作戦は成功より死んでしまう可能性の方がよほど高いと。例えヘルズネクトに住まう魔物達の手強さを知らずとも、先の襲撃に使われた敵国の駒を見れば、恐ろしさを十分に理解できるはずだ」 「って……、言われてもなあ」  アグニはそう言って頭を掻いた。  理由ならある。  ヘルズネクトに隠された『秘密』。  ミーナの両親が何故殺されたのかに繋がるかもしれないそれを、確かめる為だ。  しかし。  これは簡単に他人に話して良い事ではないなど、少し考えれば分かる事だ。
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