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そして、そのジェスチャーが分からない程、ジョイズ・モントレーは若くない。目を瞑り、鼻から息を抜き、再び目を開いたときには、ジョイズ・モントレーの視線はアグニの膝で眠るミーナへと向けられていた。
「それは、守る為か?」
アグニも視線を落として、顔に苦笑を張り付けたまま、ミーナの頭をポンポンと叩く。
「責任を持て、っていう親父の教えを言い訳にする程度は。正直、行きたかねぇけどな。だから、この話はここまでにしてくれねぇかな。――戦いに己を賭ける理由は各人で決めるほかない! そう言ったのは、おっさんじゃねぇか」
言われたジョイズ・モントレーは呆気に取られたように眼を丸くさせ、眉を持ち上げた。深く息を吐き出すついでに、顔にしわを刻んだ笑みを浮かべる。
「思った通り、奇妙な奴だ。けれど、なればこそあの時の行動にも合点がいく。広場の襲撃時に見せた鋭さは、すべてその娘の為に使われていたのだと知ればな」
「なに馬鹿なこと言ってやがる。その言い方だと誤解があるぞ」
「誤解も何も、事実だろう。その娘の為になら、好まない場所にも赴くのだからな」
「いや、確かにそう言ったけどよ……」
すべてその少女の為、などという表現では、まるで自分が甲斐甲斐しくミーナに尽くしているようではないか、とアグニは言いようのない感情に口をひん曲げた。
グリフォンの速度がガクンと落ちたのは、そのときだった。
「何を煩悶する必要があるか我には分からんが、見えたぞ。ヘルズネクトだ」
声に引かれ、アグニは遥か下の大地の裂け目へと視線を動かした。
「……ッ! すげぇ!」
それまで考えていたことが、一瞬で吹き飛んだ。
ゲールーゲ山の麓。地上からは絶対に望めない広大無辺とも思える大陸を東西に裂く、巨大な谷がそこにあった。
まだ昼時を過ぎて一刻と少しの時分だというのに、谷底は薄墨を垂らしたようにぼやけていて、まるでこの世に現れた地獄の入り口の様だと、アグニは感動した。
(くっそう。十か月前、ミーナに会う前にもここには来たはずだったが、下から見るのと全然違うな、ヘルズネクト! すげえ面白そうだ!)
楽しそうに顔を歪めるアグニは、遥か眼下に目を向けたまま、声を上げる。
「で、いまから行くのか? おっさんが言う『秘密』探しに。いまから行くのか!」
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