第三話

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 だが、そんなアグニの期待に、ジョイズ・モントレーは呆れた様に答えた。 「そんなわけなかろう。いまからヘルズネクトへと降りて行ったら、ほどなく日が沈み、暗闇の中をさ迷い探す羽目になる。自らを魔物の餌にしたいのなら別だが、そうでないなら崖の上にある野営地で一晩明かしてから、明日の早朝に出発だ。そもそも、これは街で話したはずだ。聞いていなかったのか?」 「あ、あー……」 「……、そうか。今度からはちゃんと聞いておけよ?」 「おう。分かった」  アグニは気まずそうに頬を掻いて姿勢を戻す。それもそのはずで、牛と豚の燻製肉、ヘルズネクトでどちらを先に食べるか決める為に、ミーナと壮絶な睨めっこをしていて聞いていなかったのだから。 「いや、でも、そうか。了解した。探索は明日からだな」 「そうだ。一晩ではあるが、十分に英気を養って ―― 」  ポゥ……、と。  ミーナが掛けた銀細工のネックレスが透き通った露草色のアウラを発したのは、グリフォンが野営地へと向う途中、ヘルズネクトの上空をゆっくりと渡っていたときだった。  露草色という防御結界に特化した青系統の光につられて言葉を止めたジョイズ・モントレーの視線を追って、アグニもミーナの胸元から零れるネックレスに目をやった。 「ぬう。不思議なものだな。魔法仕掛けの装飾品か?」 「いや、こいつとはそれなりに長く一緒にいるけど、光った所を見るのは初めてだ」  ジョイズ・モントレーが感心した様な声を上げ、しかしアグニはその言葉を否定する。  なんとなしにアグニの手が動き、露草色のアウラで輝く銀板をつまみ上げようとした。  その時――ドンッ! という腹に響く轟音と共に、真下から烈風が襲い掛かってきた。 「うおっ!」「ぬぅっ!」「んぁびゃあ!」  アグニとジョイズ・モントレーの驚きの声と、轟音で目を覚ましたミーナの慌てた悲鳴、そして、キュイィィィィィィィ――ッ! というグリフォンの嘶きが重なった。  真下から吹き上げる烈風に足場が激しく揺れ、グリフォンが空中でたたらを踏む。  見れば、グリフォンの大きな体のあちこちから、血飛沫が舞い上がっていた。  ちぃ……! とアグニは舌を打った。目を回すミーナの首根っこを引っ掴み、嵐に巻き込まれた小舟の様に揺れる荷台にしがみつく。荷物が空へと投げ出されるが、構っていられない。
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