第三話

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「サプライズパーティーにしちゃあ意外性が大き過ぎだぞ、おっさん!」 「ぬうっ! 我にも分からん。バナコーラからの魔法攻撃かも知れん!」  グリフォンは、二人が言葉を交わす間にも急激に高度を下げ、半分以上墜落に近い滑空でヘルズネクトの険しい谷が作る崖に向かっていた。 「つーか、このまま行ったら痛ぇじゃ済まねぇぞっ! 速度は落ちてっけどよぉ!」 「いやだー、目が覚めたら死んじゃうとかいやぁー! 激突死とかもっといやーっ!」  気付けば周囲の参加者が乗る荷台もアグニ達と同じく猛烈な勢いで高度を落とし、ばらばらに散らばっていく。グリフォンの悲鳴から力が抜け、滑空から自由落下になるのも時間の問題だった。  そこへもう一度。  下からの強烈な烈風が荷台に襲い掛かり、グリフォンの胴が真っ二つなった。 「なッ!」「ひぃぅ!」「ぬぅ!」  アグニ、ミーナ、ジョイズ・モントレーがそれぞれ声を上げ、直後、とんでもない唸りを上げて風が二度三度と襲い掛かってくる。  そして、荷台が完全な落下になる。風防障壁のおかげで風圧の殆どない落下という奇妙な状況の中で風にもまれ、木から落ちる葉の様な回転が荷台に加わる。  直後、谷底への視界が開け、三人共に言葉を失った。 「「「な…………ッ!」」」    伝説に謳われる竜族――豪放の魔蛟竜(フューリーエンドドラゴン)が、そこにいた。  全長五十レートル。全高二十五レートル。翼を広げた全幅百二十レートル。  幾多の物語で姫を食らい、王を引き裂き、山を飲み込み、海を干上がらせるとして、伝説にまで昇華された魔物の一つが、全身の毒々しいバイオレッド色の鱗も気味悪く、谷底で大きな口を開けて唸っていた。  三人の全身を駆けあがるのは、猛烈な焦りか、強烈な恐怖か。  アグニは奇妙に吊り上った口元を隠しもせずに叫んだ。 「おいこら冗談だろおっさんっ! あんな化け物が居るなら先に言っとけ!」 「すまぬ! だが、我にも初めての事は伝えられんっ! 奴は伝説ぞっ!」  叫ぶ間にも、ぐんぐんと高度が落ちていく。落下という死の危険に上乗せられて、たとえどんな方法かを使って無事に着地できたとしても、下にいる化け物という絶体絶命が加わる。戦うという行動に移った時点でデッドエンドまっしぐらだ。
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