第三話

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「それでこそだっ!」  ミーナの言葉に叫び返し、続けてアグニは、ジョイズ・モントレーへと声を放る。 「おっさん! そのゴーレムみてぇな見てくれは本物かっ!」 「無論だッ! 戦場仕立てのこの体躯、一朝一夕で身に付くものではないわっ!」 「上等だ! なら、殿は任せたぞッ! 大砲の底で受ける魔力の爆発は、きっとものすごく痛てぇからなぁ!」 「他愛無いわぁっ!」  そして、逃げたす為の馬鹿みたいな作戦が始まった。  残り時間は目測で十八秒。  まずはミーナの魔力が新緑色のアウラとなって体から立ち昇る。 「ええい! 〝銃火器精製魔法(イグニティア)〟ッ!」  捨て鉢気味のミーナの叫びに続いて、見る見るうちにジョイズ・モントレーをはじめ、アグニ達三人が荷台もろとも超巨大な砲身に包まれていく。  途端、豪放の魔蛟竜(フューリーエンドドラゴン)が強烈な雄叫びを上げた。 『ッ、ギャアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ!』  だが、雄叫びの理由を覗きに行く暇さえない。  アグニ達は落下中の超巨大な大砲の中で再び荷台へ――先頭からアグニ、ミーナ、ジョイズ・モントレーの順番で乗り込んで準備する。 「頼むぜ、おっさん! 爆発をちゃんと受け止めてくれなきゃ、みんなお陀仏だぞ!」  その声を背に受けたジョイズ・モントレーは腰の大剣を抜き放ち、大砲の底部にあたる壁へと盾の様に構えた。その体から染み出る様に溢れるのは夕焼け色という筋力強化に特化したのアウラの光だ。 「何度も言わせるな! 任せて貰おう!」  アグニに抱き抱えられるような格好でミーナはジョイズ・モントレーの構えを横目で見ると、一度深呼吸をしてから二人に告げる。 「じゃあ、いくからねっ!」  宣言と同時にミーナの魔力が、大砲の底部に凄まじい勢いで集まっていく。  新緑色のアウラが目を潰さんばかりに明度を上げ、転瞬、一気に収縮した。 『銃華大輪(じゅうかたいりん)――巨重攻城之大筒(グレイテッドシリンダー)ッ!』  叫び声と同時に、新緑色の魔力が閃光となって弾けた。  瞬間――音が消え――景色が飛んだ。  ミーナの悲鳴をはじめ、魔力の爆発を受け止めるジョイズ・モントレーの雄叫びや、アグニの歯の間から漏れる呻きという、自分の発している声さえ聞こえない、空白の時間が数秒続き――ふっ、と。体にかかる力が緩やかになり、浮遊感が生まれた。
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