第三話

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 ギュッと縮こまっていたミーナの体から力が抜け、硬く瞑られていた目蓋がゆっくりと開かれれば、思わず出てくるのは感嘆の吐息。 「うわぁ……!」  眼前眼下、一面に広がるのは、雄大に過ぎるこの星の円弧。    一緒に飛び出した荷台は粉々に砕け落ち、周りを覆っていた風防障壁は魔力の爆発で霧散して、既に遥か遠い背後では、豪放の魔蛟竜(フューリーエンドドラゴン)が自分の上に落ちてくる超巨大な大砲を一瞬で消し飛ばす光景を、驚愕をもって目にするアグニ達。大砲の中で聞いた化け物の叫びは、おそらくこの為の準備だったのだろうと思い至るが、グリフォンが運ぶ高度よりさらに高い位置からの世界という光景に、そんなことどうでもよくなっていた。  何しろ、自分より遥かに大きいはずの豪放の魔蛟竜(フューリーエンドドラゴン)が今ではもう豆粒の様で、あんな化け物でさえ、世界からすればちっぽけな存在でしかない事を、思い知らされてしまったのだから。  今、アグニは、ミーナは、そしてジョイズ・モントレーは、何を考えているのか。  ひょっとすれば自分自身、その事さえ分からなくなるほどの高揚感を、あるいは自失するほどの圧倒的な世界というものを目の前にして、呆然としているだけかもしれない。  ただ一つ言えるとすれば、三人共に『いま自分は生きている』と強く実感していることは確かだった。  そうして、数秒。  進行方向は遥か眼下の谷底にある小さな森に、奇妙な光のようなものが見え始めた頃。  浮遊感が終わりを告げるように、石を投げたら必ず落ちる事を証明するように、重力が徐々に三人の体を引きずり落とそうと力を込め始めた。 「ねぇ、アグニ。聞きたいんだけど」 「ん?」と、アグニはオリハルコンで補強され、〝討伐の紋〟が刻まれたグローブを装備しつつ、徐々に速度を増す落下のさなかにしては、気楽な声を返した。 「この後の事って、考えてあるんだよね?」 「……、あったりまえだろう? なに馬鹿なこと言ってんだ、オコチャマン」 「じゃあ、どうやって着地するか、教えておいてほしいんだけ、ど……?」  アグニの目は、これでもかというほどに泳いでいた。 「――ッ! 嘘でしょ? 嘘って言ってっ!」 「嘘――じゃあない!」 「ぎゃーっす! どうするのさ、このままじゃチンジャウじゃんかあ!」 「ぬぁははーっ! 心配すんな。どうにかなる! いんや、どうにかしてやらぁ!」
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