第三話

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 アグニは快活に笑ってみせると、ジョイズ・モントレーへと声を投げた。 「なあ、おっさんは一人で着地できるだろう?」 「むう、やってみなければ分からんが、まあ、出来ん事もなかろう。なにぶん、この高さから落ちた事はないのでな」 「上等じゃねぇか。それなら俺がおっさんまで抱えなくて済むな」  からかい半分そう言って、アグニは続ける。 「なら先に行って、着地しやすくしといてやるよ。おっさんは、そのデカイ体をいっぱいに広げて、ブレーキかけながら見ててくれ。あんま近づくとあぶねぇからよ」  言い終わると同時に、アグニはミーナを抱えたまま落下するに任せて、進む方向に頭を向けた。途端、落下速度が跳ね上がる。 「もっとだ、ミーナ。目をギュッと瞑って、俺に体をくっつけろっ!」  ミーナは、このまま地面にぶつかったら二人とも死んじゃうと思いながらも、耳元で言われた通りに、目を瞑りアグニの腕の中で精一杯に体を寄せた。するともう一段速度が上がり、ジョイズ・モントレーとの距離がぐんと開く。 「良い子だ」  目も開けていられない風圧が襲い掛かる中、アグニは後方のジョイズ・モントレーとの距離を振り返って薄く開けた横目で確認する。 (これだけ離れれば大丈夫か?)  十分な距離が開いたところで、自分の腕を頭の上、地上へと向けて力を込めた。 「しっかり捕まってろよ、ミーナ! 吹き飛ばされねぇようになぁ!」  そして、自身の超絶的な量の魔力を解放させた。  ズ、ッッどぅっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんんっッッッッッッッ! と。  人間一人が出したとは思えない轟音がヘルズネクトに響き渡る。  解放されたアグニの魔力は深紅色のアウラとなって放射状に広がり、地面と接触するとガリゴゴドガガガガガガガガガガガッ、という馬鹿みたいな音を伴って、ヘルズネクトの谷底を周囲にある岩ごと押しつぶして更地に変えていった。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ! とぉまああれぇええええええええっ!」  その直径、百レートルを優に超え、真下にたむろしていた軟体魔法生物(スライム)を蒸発させる。  アグニは接地寸前、魔力の籠った拳を思い切り地面に叩き付けて大地を割り、それでも殺しきれない速度を逃がす為に自分の背中を地に擦り、ようやく止まることに成功した。  しん……と。二人を襲うのは舞い上げられた粉塵と、何も考えられない思考の空白。
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