第三話

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「これを貰ったあの日、私は誕生日だったの。家族だけの小さな誕生会を開くのが、毎年の恒例だった。――でも、予定されてた楽しいはずの誕生会は、あいつらが来て無期延期になったんだ。襲撃、って言うのかな。最初にそれを知ったのは、父様がメイド長に持たせた護身用の警報魔具から響く、大きなベルの音だった。ビックリするくらい大きな音で、その音を聞いた途端、父様と母様の顔がとっても怖くなったのを覚えてる。――手を強く掴まれて、いつもは使われない書庫に走りこんで、一つの書棚の本を引き抜くと、そこが扉になって……。中には階段があった。そこは地下通路だった。逃げる為に用意した非常通路だ、そう言われた。あたしはそこに押し込められて『生きるんだ』、『生きていて』って叫ばれた。あたしは一緒に行こうって言ったけど、父様も母様も首を横に振って来てくれなかった……きっと、あたしが逃げる為の時間を稼ごうとしたんだよね。そのとき、このネックレスを貰ったの。『大事に持っていておくれ』そう言われて。その後は、アグニも知ってる通り。必死に逃げて、逃げて、逃げ切れなくなって、もう駄目だーって時にアグニに助けられた。あれから十か月。アグニはずっとあたしと一緒に居てくれる。だからあたしは、ここに居られる。アグニがあたしを、あたしの事を、今もずっと守っていてくれるから」  目を瞑り、手のひらにある銀板をそっと握って、手を自分の胸にぽんと乗せた。それから少し頬を染めて、照れたように笑ってみせる。 「って、そうじゃないよねっ! うんっ! だから、その、ええと。そう、あたしがこれを渡されたときに言われた言葉は『生きるんだ』『大事に持っていておくれ』ってこと。それ以外は、何にも言われてないですっ! はいっ!」  言い切って、しかしすぐ後に「あっ」と声を上げるミーナは、言葉を付け加えた。 「そう言えば、このネックレスのアウラ、父様の魔力の色です。なんででしょうね?」  露草色に光る銀板をつまみあげてねめつける様に見つめるミーナ。唇を突き出して可愛らしくむぅと唸る。  さっきの話と今の態度を合わせて見れば、無理矢理感は拭い切れないが、笑顔を作れる程度の明るさを同情などで曇らせたくないと思う男二人は、互いに横目で視線を交わすと、話を進める為の会話を再開させた。
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