第三話

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「そうか。ならば話は早い。そのネックレスを覆うアウラの色、先ほど豪放の魔蛟竜(フューリーエンドドラゴン)から逃れる際に大空を舞ったとき、谷底の小さな森にもそれと同じ色の小さな光点を見た。まずはそこを目的地と決め、歩を進めるのが良いだろう」  それから口を噤み、鼻から息を抜くジョイズ・モントレーは、自分の額に手を置いて、今度はしどろもどろそうに言う。 「あー、そなたの親御殿がどのような意図でそれを渡したのか我には皆目見当もつかぬが、えー、偶然にもヘルズネクトの奥深かい地にもそれと同じアウラの色が見えたのだ。うー、ひょっとすれば、それは、そう、あれだ、神の導きかもしれんからな」  言い終わり、ジョイズ・モントレーは自分の言葉にうんざりしたような顔で片頬を持ち上げた。静かに笑うアグニに視線を投げる。その視線に肩を竦め苦笑いを鼻に掛けて笑い飛ばすアグニは、ぽんとミーナの頭に手を置いた。そのままくしゃくしゃと撫でてやる。  誰だって〝誕生会〟に〝メイド長〟に〝隠し通路〟などという単語を羅列されれば、生まれを知る事は出来る。それがヘルズネクトに関わるとなれば、ジョイズ・モントレーもその家名を推測することに難などない。  ああ、この少女はアルマディウス家の娘なのか、と。  本来ならば、王国騎士であるジョイズ・モントレーが事実を知ったからにはそれ相応の対処をするべきなのだが、状況が状況なうえに訥々(とつとつ)と自分の過去を語るミーナの幼い表情を目の当たりにすれば、胸の温度も高くなるのが人の性だ。  だからアグニは安堵半分呆れ顔で、事実を飲み込んでくれるジョイズ・モントレーに肩をすくめて見せることが出来ていた。当のミーナは自分がいま何を言ってしまったのかなど少しも気付かず、露草色に光る銀板を眺めながら、頭を撫でられているけれど。 「んじゃ、出発しようぜ」  疲れた様な息を吐いて、撫でる頭から手を放すアグニ。 「向かう場所は決まったんだ。だったらのんびりしてる時間が持ったいねぇ」 「うむ、言うとおりだな。空から見た限りではそう遠くでもなかった。今日は進みながら休める場所を探し、細かい位置は明日、明るくなってからだ」  ジョイズ・モントレーはそう言って大剣の柄に手を置くと、太陽が進む光景に背を向けた。東西に裂けるヘルズネクトの進行方向へ目を向け、注意を喚起させる様に言葉を繰る。
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