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『――おや、こんな時間に王様から連絡が来るなんて、珍しい事もあるもんだ……幾ら忙しいからと言って、不摂生は良くないんじゃ、ないか?』
相手が一国の王だという事を忘れているような軽口だった。一般的な王なら不敬だと喚くだろうが、しかしグロウスに気にした様子はない。
「(歳の所為か眠れんのよ。それもここ一年のごたごたがあってから、益々に酷い。そなたに見張らせている間者が今日も大人しくしていたなら、眠れる気がするのだが)」
『それは、難儀だね。そして、難儀とは重なる物だよ』
「(と、言うと?)」
『想像通り、ヤツが動いた。間者本人に、重役というポストを王様が与えてくれていたおかげで、動きは簡単に掴めたけどね。どうやら、ヒントを見つけた、らしい』
軽口を叩く女の意識に僅かノイズが混じる事に気づきつつ、けれどグロウスは女の素性を知っているからこそ、その事を気にせずに話を促す。
「(ヒントとは、『秘密』を手に入れる為のか)」
『さてね。ただ、二人連れの片割れ、娘の方が、どうやら例の一族の生き残りらしい。しかもその二人、ヘルズネクト攻略に、参加しているらしいときたもんだ……それがどう話に繋がっているのかは、まあ、血縁を考えればそう難しいことじゃ……』
その瞬間、グロウスは目を見開いた。驚きに思考が鈍くなる。
「(――今、何と言った?)」
『なんだ、聞いてなかったのかい?』
こっちも暇な体じゃないんだがね……とわざわざ言い置いてから、
『連中は例の一族、アルマディウスの生き残りの娘を見つけたらしいのさ。そしてその娘は、今日の攻略作戦に参加してもいる。どう考えても『秘密』に近づく為だろうね』
ジ、ジジッと女の意識に走るノイズは落ち着くどころか少しずつ荒さを増していき、念話を続けるのに少々不都合が生じるほどになっていった。
本来、それは普通ではない。思考をダイレクトに繋げる魔法に混ざるノイズなど、寝起き直ぐの混濁した意識状態や、体を動かしている最中の『力み』に応じて起こる〝思考の阻害〟くらいだからだ。
だが、その異常に今のグロウスは気付けるだけの余裕を失っていた。
「(……娘が……侯爵の娘が、生きておったと?)」
グロウスの脳裏に浮かぶのは、会った事も無い侯爵からの手紙の内容と、激しい後悔に似た安堵だった。
「(そうか娘は、侯爵の娘は生きる事が出来ているのか……)」
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