第三話

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 その時の思考が女にも伝わり、女は離れた場所で口角を愉快気に持ち上げた。 『王様らしい。優しい思考で何よりだよ。その優しさを、あたしの様な人間にも分けてくれれば、さらにいいんだがね?』 「(それは……)」 『ふん……冗談だよ。そんなに申し訳ない、なんて考えないでくれ。捨てられていたあたしを拾って、育ててくれた恩を……忘れた訳じゃないんだ』 「(むう……)」  グロウスは窓際まで移動して、長く蓄えた白い髭を撫でた。  王国隠密諜報官。他国への潜伏や、他国の間者を密偵する。それが女の仕事だった。  騙し、脅し、惑わせ、時に殺す。その肉体に備わった、あらゆる能力を使わせて。  女にさせる行いではない事など誰よりも、もしかしたら女以上に分かっているグロウスは、女が雨の中でも薄汚れた少女だった頃を思い出して、溜息の様な息を鼻から抜く。けれど、すぐにその情景を頭から追い出すと、自身に毅然を取り戻した。今はそれを考える時ではない。 「(まあよい。間者が動いているのなら、こちらもその後を追えばよいのだ。その娘がヘルズネクト攻略に参加しているなら、間者の動きも既に分かっているのだろう?)」 『ああ、分かってるよ。分かっちゃいるが……どうにも後手後手感が半端じゃあない』 「(後手に回っている? それはどういう……)」  しかし一国の王の疑問に対して女は、 『そんな事は……今話してい……る場合じゃないん、でね。B24で……待機中、なんだ』  ぶつ、と。話を断ち切ることを返答とするように、通信を一方的に切るのだった。  やはり国の王を相手にするには勝手が過ぎるが、それがこの王国隠密諜報官という女だと理解するグロウスは、女の勝手を気に留めることをしない、どころか、むしろグロウスには珍しく、ようやく女の状況に意識が追いついて眉を寄せていた。 「話している場合ではない……か」  思案し目を細めるグロウスは、手のひらに乗った硝子のウサギにもう一度魔力を注いで、今度は城詰めの騎士に命令を飛ばす。  ――B24へ救護員を送れ、と。 (あ奴め、何故素直に助けてくれと言えんのだ……)
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