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翌日、駅まで送ってもらうと、圭介は別れ際に私の手に何かを握らせた。
「……これ」
「俺の家の合い鍵。もし俺が倒れたりしたら、優佳のこと呼ぶからな」
「う、うん!」
渡された鍵を、その場で自分の家の鍵と同じキーホルダーにまとめる。新しく作ってきてくれたものなのか、眩しいくらいキラキラ輝いていた。
「……合い鍵なんて渡したの、優佳がはじめてだ」
そう言って照れ臭そうに笑う圭介に、胸が熱くなる。
私も、圭介のこと大切にしなきゃ。一時の感情に揺れてるなんて、馬鹿みたいだ。
次に会う約束をして、この日は別れた。家に着く時間よりだいぶ前に「無事に帰れた?」ってメッセージが来てて笑ったけど、安心できた。
その日の夜、沙貴から呼び出されて近所のファミレスに二人で集まった。学生時代からずっと、何か話したいときはここに来る。ドリンクバーで何時間も……なんて社会人になってからはやらなくなったけど、それでも長話するにはうってつけの場所だ。
「で、どうしたの? やらかした、って」
そう、さっきもらったメッセージの文面は「やらかした。19時にファニーズ集合」っていう短文のみ。何があったのか、どんな内容なのか知らずに来た。
「……まあ、食べてから話す」
相当重い内容なのか、一旦食事を終えてから話すと言うのでハンバーグのセットを注文する。料理を食べている最中は取り止めのないことを話した。圭介から合い鍵を貰った話をしたらだいぶ驚いていたけど。
「で? なに、したの?」
食器を下げて貰ってひと段落したとき、ドリンクのストローを噛みながら沙貴は言った。
「……浮気、しちゃった」
ハッ、と沙貴の方を見ると、彼女はドリンクを飲みながら気まずそうに目をそらした。
「……え?」
浮気、うわき、ウワキ。
ドラマなんかでよく聞くけれど、今の彼氏と六年付き合っている沙貴の口からこのキーワードが出たのは初めてだ。
怒るべきなのか、悲しめばいいのか、迷ったけど。不安そうな沙貴の顔を見て今日の話は長くなりそうだと思った私は、とりあえず店員さんを呼んで追加のデザートを注文した。
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