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何言ってるの、と言いかけて、私は口をつぐむ。「なんでもわかってるんだから」と言いたげな沙貴から、目が逸らせない。
その先は、言ってはいけない。ましてや、第三者の口から言葉にされたら、本当にもう認めざるを得ない気がして。
お願い、言わないで。私がそう伝えるより早く、沙貴の唇が開いて、
「優佳、好きなんでしょ? オカさんのこと」
と、言った。
……なんで、沙貴はいつも遠慮なしに物事を口にできるんだろう。私なんて、家族にさえ気を遣って言えないこともたくさんあるのに。中学から10年以上の付き合いの沙貴のそんなところが、怖くもあり羨ましくもあった。
「な、んで? そんなわけ、ないじゃん。だいたいオカくん、彼女いるし……」
「あ、まずそこなんだ。"自分に彼氏がいること"は一番の否定理由じゃないんだね」
「……え」
まずい、言葉選びを間違えた。頭のいい彼女は、細かいところによく気づく。「別に、隠さなくても言ったりしないのに」と、胸元まである髪を指に絡めた沙貴は、さっきまでと違って少し楽しそうに見えた。
たとえここで私が「オカくんのことが好き」と告白しても、沙貴が誰にも言ったりしないことはわかっている。信用しているから、観念して正直な気持ちを話すことにした。
「……別に、好きなわけじゃないよ。素敵だな、って思ったことは認めるけど」
……そう、私の本心は、今言葉にした通りなのだ。確かにオカくんの言葉や行動にはドキドキしたし、彼のような人が恋人だったら素敵だ、とも思ったけれど、彼女がいる相手にアプローチして関係を崩そうと思うほど大きい気持ちではない。それに、圭介が大切だという思いも本当だし、オカくんと圭介を男性として比べたこともない。
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