1 恋人と、好きな人

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特別、かっこいいわけじゃない。 むしろちょっとぽっちゃりめだよね。 だけどこの人の周りに、人が集まる理由がわかる気がする。 「てか、オカは?まだ溝口さんと続いてんの?」 「あたりまえじゃん、なんも変わんねーよ」 「まじかー、何年経ったんだっけ?結婚すんの?」 「3年。まあ、このまま続けばそのうちね」 あ、彼女、いるんだ。 しかも3年って、一途なひとなのかな。 「てかさ、いま浜の方にいるんでしょ?遠いなー」 「車で3時間くらいかかるかな」 「え、遠距離、なの?」 気になって話にまざると、岡本くんはちょっとさみしそうに言った。 「俺の彼女さ、中学の教師やってんだよね。最初だから県内どこ飛ばされるかわかんなくて、いまは浜の中学勤務」 ……教師。 ああどうしよう、聞かなきゃよかったな。 わたしが喉から手が出るほどなりたくてたまらなかった、職業。 教員免許を取るために四年制の大学に行ったけど、家庭の事情で一年半で中退。 ショックで、諦めきれなくて、お金を貯めていつか復学する!なんて思いながら塾でアルバイトを続けて5年が経って、最近上から声をかけてもらって正社員になったばかり。 ……つまり私は、また大学に行くことを諦めたんだ。 夢のために、なんて言いながら、結局10代に混ざって大学に通う勇気がなくて。 採用試験も年齢制限があるし、第一それほどお金も貯まらなかった。 なのに同年代で教師をやっているって人を見たり聞いたりすると、悔しくて苦しくてたまらなくなる。 完全な職業コンプレックスだ。 「……? どうしたの?」 「あ、ごめん……なんでも、わっ!!」 いろいろ考えていたときに岡本くんに話しかけられてびっくりした私は、目の前のグラスを倒してしまった。 「うっわ、何やってんの優佳」 隣にいた圭介が自分のスマホをテーブルから避難させて、おしぼりを差し出してくる。 …それより先に、青いハンカチが私の濡れた手をぬぐった。
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