1 恋人と、好きな人

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たとえばなんとも思ってない人に褒められても、たいして何も思わないような気がする。 それがなんで、今日はじめてあったばかりの人に? ……その理由は、2回目に会ったときに気づいた。 ーーーーーーーーーーーーーーー 沙貴に地元のお祭りに誘われた。 どうやら岡本くんはお祭りの地区ごとの青年衆・通称「若連」に所属しているらしい。 …ちなみに圭介も誘ったけど、この日は地元に帰ってこれなかった。 「あ、いた!オカー!!」 「! おーー!」 沙貴が叫ぶと、気付いたオカくんが神輿の上から手を振ってくれた。 汗だくで、神輿を動かす姿はこの前とは違って。 真剣な顔を、じっと見ていた。 しばらく屋台をまわりながらいると、休憩時間なのかオカくんがわたしたちを見つけて来てくれた。 「久野ー、優佳ちゃん、見に来てくれたんだ」 「おつかれー、圭介も誘ったんだけど、今週ダメだって」 「まあアイツは仕方ないよ。あ、なんか飲む?一杯くらい、おごる」 やった、ビール!と沙貴は喜んで答える。 ちょっと申し訳ないけど、ありがたく受け取っておこう。 ……生理中だし、アルコールはやめておこうかな…… 「優佳ちゃんは?」 「あ、えっと……ウーロン茶、かな」 「えっ、ごめん、なに??」 わたしが話したと同時に、神輿から聞こえるお囃子が大きくなった。 オカくんは聞こえなかったみたいで、わたしの顔に耳を寄せる。 息が触れそうな距離。 心臓が、鳴ってしまった。 ……あ。これ、ダメなやつ。 例えるなら、中学生のころにはじめて好きな男の子と喋ったときのような。 甘酸っぱい感情に似て、わかりやすく鼓動が早くなった。 「う、ウーロン茶……!」 オカくんの耳に向けて言うと、了解、と言って笑った。 「はい、ビールと、ウーロン茶」 「ありがとー、太っ腹!」 「あ、ありがとう……」 カップを受け取るときに、ちょっとだけ指先が触れた。 きっと気づいたのはわたしの方だけ。 会ったばかりの人に、どうして? それほど彼のことを知っているわけでもない。 ただ、優しくて、あたたかくて。 ……理屈じゃわからない場所に、わたしの心は落ちてしまった。
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