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「本当に落ち着くかおりだよねえ」
「さゆりちゃんのコーヒーを飲まないと、一日が始まりませんよね」
石川さんと溝口さんは、目を閉じてこの芳醇な香りを楽しんでいる。
店にこの香りが充満すると、鈴木のおっさんまでも何も話さなくなる。コーヒーそのものがすごいのか、さゆりさんが淹れるコーヒーが特別なのかはよくわからない。
ちなみに喫茶リリィではサイフォンという器具を使って抽出している。カウンターに並べられたその器具を見ると、なぜか俺は理科の実験を思い出す。
「冬馬くん、テーブルまで運んでもらえますか?」
「はーい」
「このサンドウィッチが溝口さん、エッグベネディクトは石川さん、肉じゃが定食は鈴木さんです」
俺は言われた通りに、料理とコーヒーをそれぞれの前に運んだ。
ちなみに、この中でメニュー表に載っているのはサンドウィッチだけ。
さゆりさんはメニューにないものでも、リクエストに応えて作ることがある。去年の俺の時みたく、売上度外視したサービスをしてしまうこともしばしばだ。
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