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試合が終わった瞬間、なぜか涙はでなかった。泣いている友達の傍にかけ寄ることもできず、ただグラウンドの上で立ち尽くしていた。
これが現実だと認めたくなかったのかもしれない。これが夢だったらいいのにって思ってたんだと思う。
泣いたら、これですべてが終わったんだと痛感してしまうから、脳みそが泣かないように命令していたんだと思う。
それなのに、今は涙が溢れて止まらない。どうしてだろう。こんなところで泣くなんてカッコ悪いってわかっているのに。
腕でごしごしと顔を拭いていると、さゆりさんは俺に白いハンカチを差し出した。
「これ、使ってください」
「ありがとうございます。洗って返すんで……」
「いえ、あげますよ。なので思いっ切り使っちゃってください」
優しさが身に染みて、よけいに泣いてしまいそうだ。この人は何でこんなに優しいんだろう。やっぱり天使なのかのかもしれない。
ハンカチで目を押さえると、洗剤の優しい香りがした。心が落ちついていく。
涙を拭き終え、呼吸を整えていると、いったんカウンター奥に入っていたさゆりさんが戻ってきた。
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