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彼女は漣を手慣れた様子で家の方へ運び出した。彼女の馬は当たり前のように先回りして器用に半分開いていた家のドアを開けた。
「ありがとう。」
彼女は漣をベッドに寝かせ、馬の背に乗せた荷物から1つのカゴを取った。漣の馬達も心配そうに家の中を覗く。開いたかごの中には包帯や薬などが入っている。彼女は手際よく手当てを始めた。漣は傷口の痛みで苦しそうな声を上げる。
「何があったらこんな事に…。」
家の中は生活の跡がそのまま残っていて、まるで時間が止まっているようだ。
「ん…?」
彼女は違和感を感じた。ここで倒れていたのは2人なのに食器は3人分あるのだ。それに、女物の服や生活用品もある。
「あと一人は…。逃げたのかしら。それとも…。」
手当てが一通り終わり、彼女は立ち上がった。既に死んでいる漣の父親の方へ向かう。悲惨という言葉を形にしたような体を、カラス達が狙って木の上から様子を伺っている。
「こんなことになっている人がいるのに、逃げることなんて出来るのかしら。」
地面に1羽のカラスが降りてきた。漣の馬達はカラスを追い払う。彼女は馬小屋から大きな布を持って来た。
「あなたのお子さんは助かりますよ。あなたの死は無駄にはしない。」
そう言って漣の父親の体を包んだ。そうして何とか馬小屋に運び込んだ。
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