プロローグ

4/9
522人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
 気分が鉛のように沈み込み、少年は小さな溜息を吐き出した。だが、今更そんなことを思っても仕方がない。とにかく、少年は大人しくこの馬車に揺られ、リィンスタット王が待つ王宮へ向かわなければならないのである。  もう一度大きなため息を吐き出した少年の手に、トカゲが身体を擦り付けてくる。恐らく、励ましているつもりなのだろう。 「ふふ、ありがとう、ティアくん」  トカゲにしては温かな鱗を撫でてから、少年は再び覗き窓から外を見た。 「これ、ちゃんと王都へ向かえてるのかな……」  見渡す限り砂丘が広がっているので、今現在どこにいるのかすら判らない。かろうじて太陽の位置から大雑把な方角くらいは把握できるが、それだけだ。  やや不安そうな顔をした少年を見上げたトカゲが、こてんと首を傾げる。次いで彼は、少年の膝の上から跳び下りると、そのまま馬車の前方、御者の席がある場所へと這い出ていってしまった。だが、少年に驚く様子はない。もちろん初めの一回目は驚いたし慌てたのだが、もうすっかり慣れてしまったのだ。  前方に備え付けられている小窓からそっと外を窺えば、トカゲがモファロンの背中に乗って、その背をぺちぺちと叩いているのが見えた。すると、モファロンが大きくひと声鳴く。     
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!