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恐らく、会話をしているのだ。果たしてそれが会話と呼べる種類のものなのかは判らないが、モファロンがトカゲの指示に従っているのは確かである。食事のために馬車を止めるときも、休憩を終えて再出発するときも、モファロンの背中を叩いて促すのはトカゲの役目だった。
(あの人の言った通りだな……)
――炎獄蜥蜴が相手ならば大抵の獣が従うから、わざわざ御者を雇う必要はない。他人と何日も一緒では、お前の気が休まらないだろう?
そう言ってくれたのは、赤の王だった。お陰で御者を雇うことなく快適な旅を続けさせて貰っている。大変有難い配慮だったが、どうしてあの王はそれを普段も発揮できないのだろうか。
そんなことを考えていると、馬車の中へと戻ってきたトカゲが少年を見上げた。そして、その場で円を描くように歩いて見せる。どうやら、旅路は順調なようだ。
「ありがとう」
微笑んで小さな頭を撫でてやれば、トカゲは嬉しそうに身体を摺り寄せてから、少年の膝の上によじ登ってきた。そして、そこで丸くなって大きな欠伸をする。
「眠いの? 寝ちゃっても良いよ?」
ゆるりゆるりと背中を撫でてやれば、トカゲの目がとろりと微睡むように細められる。そのまま瞼が下ろされ、彼が眠りに落ちようとしたそのとき。
不意にモファロンが悲鳴じみた咆哮を上げ、馬車が大きく揺れた。
「な、なに……!?」
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