砂漠の色男

20/20
521人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
 勢いよく顔を踏まれた王が、ひっくり返って地面に転がる。一方の王獣は、一度すっと上へ駆け上がってから華麗に着地し、転がっている王の腹に前脚を乗せた。 「ぐぇ、お、重い! お前な! お前が思ってる以上に重いからどけ!」  喚く王を睨んでから前脚をどかした王獣は、そのままその前脚で王の身体を蹴って転がした。 「いって!」  呻いた王の背中に再び前脚を乗せた王獣が、王の後ろ襟を咥える。そこまでされた王は、次に起こることを察してぎょっとした表情を浮かべた。 「ちょ、ちょっと待て待て! 俺今すっげぇ適当に服着てるから、それやったら脱げる!」  だが、王獣は王の抗議になど耳を貸さない。前脚をどかし、ぐいっと顔を上げた王獣は、そのまま地面を蹴って空へと飛び出した。 「脱げて落ちるっつってんだろーがぁ! 風霊ちゃん良い感じに服着せてぇ!」  クラリオの悲鳴を受け、風霊がせっせと衣服を整えていく。それは、これまでの王では見たことがないほどに間の抜けた光景だった。あの赤の王だって、もう少し王としての尊厳を保っていたように思う。 「ええー! リァン様、国王様を連れて行ってしまわれるんですかー!?」 「お食事一緒にしましょうってお話してたのにー! クラリオ様ー!」  女性陣からも男性陣からも残念そうな声が上がったが、王獣はそれにも耳を貸すつもりがないようで、そのまま滑るように駆け出してしまった。 「ごめんね女の子たちー! 今度絶対ご飯一緒に食べようねー!」  叫ぶ黄の王の声が、どんどん遠ざかって行く。かろうじて言葉の最後が聞き取れたあたりで、雷鳴のような轟音と共に王の悲鳴のようなものが聞こえて、少年は思わず肩を震わせてしまった。  何事かと思った少年だったが、未だざわついている人々の会話から察するに、先程の王獣は王宮を抜け出してフラフラしていた国王を連れ戻しに来て、反省の様子が見えない彼に怒って軽く雷を落としたのだろうと、そういうことらしい。  なんだかどこかで聞き覚えがあるような話だ。そっちの場合、落とされる雷は物理的なものではなく、落とすのも王獣ではなかったが。 (…………王様って、やっぱり変な人しかいないんだな……)  青の王あたりが聞いたら般若の形相を浮かべそうなことを考えながら、少年はようやくモファロンの元へと向かったのであった。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!