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コーヒー一杯で七百円なんて、信じられない。
銀座とはいえ、たかがカフェなのに!
一人だったら絶対来ることのないようなオシャレなカフェに、私と愛子はいた。
愛子はキャラメルマキアートを、私は一番安いホットコーヒーを頼んだ。
確かにここのコーヒーは美味しいけど、ついもったいぶってちびちびと飲んでしまうから味なんてほとんどわからない。
今日の夜ご飯は安く済まそうかな。
家にある冷蔵庫の中に入っている食材を思いうかべた。
「ねえ、加奈聞いてる?」
ハッとして顔を上げると、怪訝そうな顔をした愛子と目が合った。
しまった、つい余計なことを考えていて、話を聞いていなかった。
私は、目の前の愛子に向かって急いで答えた。
「あっ、ごめんごめん。ボーっとしてた。章大君とデートしたんだっけ?」
「そう。それで車でドライブ連れてってくれたのに、連れて行かれたところが釣り堀だったって話!ありえなくない?」
そう言って、愛子は白い小ぶりなカップに口をつけ、一口すすった。
愛子のが飲んでいるキャラメルマキアートは、たしか八百二十円。
やっぱり、広告代理店ってお給料がいいのかしら、などとまた無意味なことを考えてしまう。
「まあ、自分の趣味を一緒に楽しんで欲しかったんじゃない?」
私はなだめるように、そうこたえた。
彼女は昔から変わらぬ真っ黒なロングヘア―を耳にかけていった。
「だとしても釣り堀って。自分の趣味をこっちに押し付けられてもねえ」
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