アゲハ蝶の見た夢

2/11

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 ぐちぐちと蠢く、赤黒い、僅かに赤ん坊の形を残した肉塊。  肉塊は何かを言いたそうに、口を動かす。 「ァ…………ァ…………」  悲しそうな、なき声。  ぐちぐち、ぐちぐち。  血をまき散らしながら、肉塊は蠢く。  私は、その肉塊の頭と思わしき場所を、そっと撫でた。  優しく。  間違っても、傷付けない様に。  肉塊は、何も言わない。  …けれど、少しだけ。  少しだけ、嬉しそうな顔をした、  気がしたんだ。  モルフォ蝶は飛ぶ。  ひらひら。ひらひら。  蒼い光を、その場に残して。 「―――、―――」  背後から聞こえる声を無視して、モルフォ蝶を追った。  次にモルフォ蝶が止まったのは、学習机の上。  近付いて、天板を撫でる。  天板には、血が塗り付けられた魔方陣が彫られていた。  何度も、何度も、力を込めて刻み付けられ、  何度も、何度も、血を塗りたくった、魔方陣。  知っている。  これは、ソロモン七十二柱の第四十位、ラウムを呼ぶ為の魔方陣。  街を滅ぼし、召喚した魔術師に地位や名声を与え、  …他者を蹴落とす力を持つ悪魔を呼ぶ為の、魔方陣。  …意味なんて、無いのに。  こんな物を刻んでも、  こんな物に血を与えても、  悪魔なんて、呼べる筈が無いのに。  …それでも、その力を欲した。     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加