アゲハ蝶の見た夢

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 こんなにも、深く何度も刻む程。  力を、欲したんだ。  ペン立てに立っていた剃刀で手首を切って、血を垂らす。  魔方陣は血を吸って、  それだけだ。  何も出て来ない。  悪魔も。  それ以外の、力ある何モノも。  モルフォ蝶は用が済んだとばかりに、ひらひらと飛ぶ。  私は天板を一度撫で、モルフォ蝶を追おうとする。 「―――、―――」  私の名前を呼ぶ声は、まだ聞こえている。  …少しだけ。  少しだけ、気になったけれど。  それでも、  それでも私は、モルフォ蝶を追った。  モルフォ蝶が止まったのは、大きな石が置かれただけの、簡単なお墓。  近付いて、石に刻まれた名前を撫でる。  書かれていたのは、記号が一つだけ。  この下には、沢山の人が埋められている。  けれど書かれているのは、記号一つ。  一つの記号で、複数。  複数で、一つの記号。  このお墓の下にいるのは、そういう人達。 「……ケイティ、マーガレット」  …けれど。  口から出て来るのは、名前。 「ミシェル、ツバキ、イーダ」  このお墓の下にいる人達の、名前。  涙が、溢れる。 「ホタル、コーネリウス、シュンメイ」  止まらない。 「フィーネ、メノウ、ローズ」  涙も、名前も。 「セレナ、ヘレン、ナデシコ」     
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