アゲハ蝶の見た夢

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 止まらない。  止まらない。 「…………モルフォ」  …大切な、  とても大切な、名前。  …墓石が、砕ける。  砕けて、砂になって。  消えていく。  消えていく。  なくなった。 「サァ、行コウ」  モルフォ蝶は、そう言って飛んで行く。  私は、その後を付いて行く。 「―――、―――、―――」  私を呼ぶ声が聞こえる。  知らない声だ。  …知らない、声の、筈だ。    次にモルフォ蝶が止まったのは、大きな本棚。  そこには、沢山の本が並べられている。  全ての背表紙に文字は無く、赤い。  本棚から一冊の本を抜き、中を見る。  何も、書かれていない。  真っ白だ。  もう一冊、中を見る。  これも、真っ白。  次の本も、次の本も、次の本も次の本も次の本も真っ白だ。  空っぽ。  何も、書かれていない。  虚しくなるぐらい、空っぽ。  私の周りにある、全ての本が、空っぽ。  何も、遺せなかったんだ。  書き記す事が出来る、楽しかった事も、悲しかった事も、嬉しかった事も、苦しかった事も。  何も。  何も、無かったんだ。この本を書いた人の人生には。  …まるで、私みたい。  私みたい?  …どうして、私みたい?  本棚の中に、一冊だけ、     
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