アゲハ蝶の見た夢

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 黒い背表紙に文字化けした文字が書かれた、本があった。  黒は、恐怖。  文字化けした文字は、不気味。  触ってはいけない。  そう、思っていたのに。  自然に伸ばされる手。  黒い背表紙に触れる。  黒い背表紙を撫でる。  温かい。  とくん。とくん。とくん。とくん。  その本が、脈動する。  ささやかに、  けれど、確かな脈動。  読んでみたい。  本棚から、それを引き抜こうとする。 「読ンジャ駄目」  声が聞こえた。 「読ンジャ駄目」  幼い少女の様な声。 「読ンジャ駄目」  老いた老婆の様な声。 「読ンジャ駄目」  それは、モルフォ蝶の声。 「読ンジャ駄目」 「読ンジャ駄目」 「読ンジャ駄目」 「読ンジャ駄目」 「ソレハ、君ニトッテ必要ノ無イ物ダカラ」  モルフォ蝶の声に従って、本から手を放す。 「―――!―――!」  私の名前を呼ぶ声が聞こえる。  振り向くけれど、誰もいない。  幻聴。  私は、モルフォ蝶の後を追った。  黒く、文字化けした背表紙の本。  文字化けが、解けていく。 【カナタと私の思い出】  それが、モルフォ蝶が読む事を否定した本の、タイトルだった。  沢山のモルフォ蝶が、何かに止まっていた。  私を導いてくれていたモルフォ蝶が、その中に紛れていく。     
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