アゲハ蝶の見た夢

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 近付くと、モルフォ蝶が一斉に飛び立った。  近付く。  血の匂い。  近付く。  肉が腐った匂い。  近付く。  近付く。  そこにいたのは、  そこに、あったのは、  ……私だ。  食い散らかされた、私の骸。  前に、気まぐれに読んだ本に、書かれていた事を思い出す。  モルフォ蝶が食べるのは、腐った果実、キノコ、  そして、動物の死骸。  …思い出した。  何もかも。  何もかも。 「サァ、行コウ」  私の死体の上に止まっていたモルフォ蝶が言う。 「どこに行くの?」  私の死体の上に止まっていたモルフォ蝶に問う。 「君ガ望ム場所ヘ」  私の上に死体に止まっていたモルフォ蝶が笑う。 「サァ、行コウ」  …ああ。ああ。  この長い旅も、ようやく終わるのか。  怯える気持ちを、安堵で覆い尽くし、  私は、一歩前へ踏み出そうとした。  …進めない。  歩き出せない。  …闇が。  形の定まらない闇が、私の手首を掴んでいたから。 「ドウシタノ?」 「前に進めないの。  闇が、私の手を掴んで、離さないの」  モルフォ蝶に、告げた瞬間。  モルフォ蝶が、闇に群がる。  ばりばり。ばりばり。  皮膚を、肉を、骨を喰う音。 「行かないでッ!―――ッ!」  闇の中から、声が聞こえた。  今までずっと、私を呼んでいた声。     
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