アゲハ蝶の見た夢

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アゲハ蝶の見た夢

 そこは、真っ暗な世界。  上も、下も、右も左も分からない、  灯りの一つすら無い、そんな世界。  恐怖は、感じない。  喜びも、悲しみも、何も感じない世界。  …当然だ。  ここは、夢。  私の心の中を写す、夢なのだから。  その場に蹲って、目を閉じる。  何を考える訳でも無く、何を思う訳でも無く。  真っ暗な世界と、一つになる。  溶けて、私と世界の境界が無くなっていく。  ……何か、いる。  この世界に。  私しかいない、この世界に、何かいる。  目を開ける。  膝を抱えた、手の甲の上。  一匹の蝶が、止まっていた。  艶かしい、蒼い鱗粉を持った、モルフォ蝶。  真っ暗な世界の筈なのに、その蝶の周囲だけ、蒼く、淡く、煌々と光っている。  モルフォ蝶は三度、翅を羽ばたかせると、ひらひらと飛んで行った。  その征く道に、蒼い光を残して。  私は立ち上がって、モルフォ蝶の後を追う。  そうしなければ、ならない気がして。 「…―――」  私の背後から、  私の名前を呼ぶ、声がした。  モルフォ蝶が止まったのは、ベビーベッドの縁。  ゆっくりと翅を羽ばたかせ、私を待っている。  私はベビーベッドに近付き、中を見た。  そこにあったのは、肉塊。     
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