第3章

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 大学へ来たが、履修登録を済ませたので今日やることはもうない。  自宅に向かって歩いていると道端の掲示板に目が止まった。  近くで人形展を開催しているようだ。これからやることもないし、ちょっと覗いてみようかな。別段に興味があるわけではない。  ただの暇つぶしだ。  受付で入場料を支払い、展示会場に入ると静かな空気に包まれた。  展示場内には様々な種類の人形が置かれていた。どれも精巧にできており、感心した。しばらくすると頭が痛くなってきた。頭の奥を誰かに何度も叩かれているみたいだ。ずんずんと頭が痛み、次第に吐き気も催してきた。  展示場を出てロビーへ移動する。  辺りを見回してどこか休める場所を探す。少し先に壁際にソファが置かれているが視界に入った。近づいていくとすでに女性が一人座っていることに気がついた。その女性は手にスマートフォンを持ち、俯き画面を凝視しているようだった。女性の顔は艶やかな肩まで伸びた黒髪に隠されて見えなかった。タイトな鼠色のニットセーターとスキニージーンズで手足はすらりとしていて、余分な肉などどこにもないようで、それでいて胸はしっかりとした膨らみがあった。 ロビーは片側がガラス張りになっており、陽光が差し込んでいる。まるで彼女も展示品のひとつのようだった。  僕は彼女に断りを入れて隣に座った。僕が蹲っていると彼女が声をかけて来た。 「ご気分悪いんですか? 係りの人呼びましょうか?」  僕を心配して覗き込んでくる彼女の慈愛に満ちた表情は僕の心に流れ込んできて満たした。彼女と会話するうちにいつのまにか頭痛は収まっていた。 「友達がこういうの好きで、一緒に来たの」  彼女の目はアーモンドのようにきりっとした形で、肌は白く、唇は艶やかだった。彼女は友人とここへ訪れ、今は別行動しているらしい。 「私こういうのあんまり好きじゃなくて、人形に囲まれてると気分悪くなっちゃって、やっぱ無理って」  そういった彼女はこちらを見て、失言したと思ったのか「あっ」と口に手を当てた。 「俺もたまたま入ってみただけで、別にこういうのが好きってわけじゃないんだ」 「あ、そうなんだ」  女性は安心したように相槌を打った。  偶然にも僕と彼女は同じ大学で彼女の方が一年上だった。彼女の名前は恵梨香という。その後、友人と合流した彼女はどこかへ去っていった。
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