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人形展を出てから僕はポケットのお守りを取り出し、封を開けた。中には人形の指が一本入っていた。そうだ、これは僕が昔大事にしていた人形の指だ。なぜ今まで忘れていたのだろうか?
駅前の裁縫店で材料を揃えた。
昔、大事にしていた人形を捨てられたとき、必死の思いで掴んで両親の監視から守り抜いた、人形の指先。僕はこの指先を買ってきた人形の身体の中心に埋め込んだ。花の種を土の中に植えこむように、樹脂でできた人形の胸の中に、人形に魂を埋め込んだ。人形の髪を黒く染め、瞳にカラーフィルムを被せた。記憶の中の人形にそっくりになった。あの頃の人形が蘇ったことに満足して、人形を机の上に置き眺めていると人形が語りかけてきた。
「タケル君、ひさしぶりね。十年ぶりかしら?」
「僕はずっと君と一緒にいた気がしていたよ」
「私はずっとあなたに話しかけていたのよ? でもようやっと声が届くようになったわ」
そうだったのか、彼女は指先だけになっても生きていたのか。ずっと僕に語りかけてくれていたんだ。胸の中が暖かくなったと感じた後、後ろめたさを感じた。
「ごめん」
「どうして謝るの?」
「どうしても君の名前を思い出せないんだ」
人形は頬を僅かに膨らませ、微笑みを浮かべた。
「いいの。今の私は昔の私とは違うわ。今、私に名前をつけてちょうだい」
僕は少し思案して、人形に名前をつけた。
僕は大学であったことや感じたことを毎日アリカに話した。アリカはじっと僕の話を聞いてくれた。
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