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茨の城
ある村の森に魔女と呼ばれる女がいました。魔女は森の奥にある大きな城に一人で住んでいます。魔女を恐れた村人たちは口々にこう言いました。
「あの女は決して歳を取らないからきっと魔女に違いない」
「ああ恐ろしい!魔女は何をするかわからないわ」
「そうだそうだ!いつわしらのことを呪い殺すかわからないぞ」
「その証拠に魔女を捕まえに行った者たちは一人も帰ってこないじゃないか」
村人たちの何人かは、魔女を捕らえて火あぶりにしようと魔女の住む城に向かいました。しかし、彼らは城に行ったきり、誰一人として戻ってはきませんでした。
村人たちは困りました。この小さな村には老人と女、あとは子供ばかりで、若い男が少なかったからです。これ以上貴重な働き手を失うわけにはいきません。それに、この村では、ほとんどの男が若いうちに結婚し妻子を持ちます。ゆえに、自ら進んで魔女を捕らえに行きたがる者などいなかったのです。かといって、腰の曲がった老人が魔女を捕えられるとは到底思えません。村人たちがどうしたものかと考えあぐねていると、一人の男が名乗り出ました。
「私が城に行きましょう。私は天涯孤独の身、もし私が死んでも悲しむ者はいないでしょう」
その男の名前はアルベール。アルベールは村の外れに一人で住んでいます。小さい頃、教会の前に捨てられていた彼は偏屈な村の老人に拾われました。村の外れにある粗末な小屋で二人は一緒に暮らしていましたが、彼が十歳になる頃、老人は病気で死んでしまいました。
それ以来、アルベールは結婚もしなければ友達を作ることもせずに、一人ひっそりと暮らしています。無口な彼のことを村人たちは気味悪がって、忌まわしく思っていました。
「おおアルベール、お前が行ってくれるのか」
「魔女を捕まえることができれば子供たちも安心だわ」
「そうかそうか。それは頼もしい」
「すまないが、どうか我々の代わりに魔女を捕まえてきてくれたまえ」
そう言いながら村人たちはアルベールの肩を叩くのでした。
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