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アルベールは森の入口までやって来ました。森のそばにあるのは、彼が捨てられていたという教会です。けれど、アルベールは教会には一瞥もくれずに森の中に入って行きました。
森の中はしんとしていました。昼間だというのに鳥や獣の鳴き声も聞こえません。鬱蒼と茂った木々は、まるで太陽の光を拒んでいるかのようでした。頭上から垂れ下がった植物の蔓がアルベールの行く手を阻みます。次第に彼は自分がどこを歩いているのかわからなくなりました。その時でした、目の前を一匹の美しい蝶が通り過ぎていきました。紫色に輝くその蝶はアルベールの周りを一回りしたかと思うと、歩いてきた道と逆の方へ、ひらひらと飛んでいきました。アルベールは導かれるように、森のさらに奥へと歩みを進めます。
しばらく歩いていると、目の前に光が現れました。木々の間から差し込む光は、森の出口を意味しています。アルベールは足早に、その光の差す方を目指しました。
森を抜けると、そこには庭園が広がっていました。生け垣に囲まれた花壇には紫色のアネモネが咲き乱れ、順序よく並んだ植木は綺麗に手入れがされています。薔薇のアーチが続くその先に、茨に覆われた城がありました。
アルベールはあたりを見回しましたが、そよそよと風が吹いているだけでした。本当にここに恐ろしい魔女が住んでいるのでしょうか。アルベールは薔薇のアーチをくぐり、城の目の前までたどり着きました。城に巻き付いた茨はとても太く、鋭い棘を持っています。うっかり触れようものなら、たちまち血が流れることになるでしょう。アルベールは城の中に入ろうとしましたが、窓はおろか、大きな扉までもが茨に覆われていて、どこからも入ることができません。彼は城の扉についている鉄の輪を茨の隙間から手に取ると、それをゴツゴツと扉に叩きつけながら、こう言いました。
「私の名前はアルベール。この城に住む魔女に会いに来た。この扉を開けてはくれまいか」
すると、どうでしょう、先ほどまでびっしりと城に巻き付いていた茨が、するするとその身を引き始めたではありませんか。茨の奥から大きな扉がその姿を現しました。アルベールは扉をゆっくりと開き、城の中に足を踏み入れました。
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