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城の中は薄暗く、重く息苦しい空気に包まれていました。玄関ホールの天井からぶら下がったシャンデリアには蜘蛛の巣がかかっています。真紅の絨毯が引かれた階段の上に、一人の女が立っていました。
「あなたがアルベールですか」
そう言った女の顔を見て、アルベールは驚きました。女の肌は雪のごとく白く透き通り、大きな瞳はまるで硝子のように美しかったからです。けれどその瞳はどこか悲しげでした。
「いかにも、私がアルベールです。あなたはこの城に住む魔女ですか」
彼は女に向かって尋ねました。ところが、女はこう答えました。
「私はこの城に住む者です。ですが、私は魔女ではありません」
女の答えに納得できないアルベールは、なおも言葉を続けます。
「あなたが魔女ではないと言うのなら、村の者たちは一体どこへ消えてしまったというのでしょう。彼らは確かにこの城に来たはずです」
女は手すりに手をかけながら、緩やかに階段を降りてきて、言いました。
「この城には魔法がかけられています。茨の魔法です。茨に触れた者、城に侵入しようとするものはみな、この茨に刺されて死んでしまいました」
「しかし、私はこうして城の中に入り、あなたと話をしています。それはなぜですか」
「あなたはきちんと自らの名を名乗り扉を叩きました。だから茨に襲われなかったのです。魔法使いはその者の顔と名前さえわかれば、簡単に呪いをかけることができます」
「けれども、あなたは自分が魔女ではないとそう言いました。魔女ではないあなたがなぜそのようなことを知り得るのでしょう」
アルベールがそう言うと、女の表情に僅かに陰りが見えました。
「それには理由があるのです。私の話を聞いてはもらえますか」
それから女は、自分がこの城に住むことになった理由を語り始めました。
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