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ぬいぐるみ
それが存在してることが許せなかった。だから、
「なん、で……」
ピンクを基調としたパッチワークのぬいぐるみ。首にかけられたチェーンに通された小さなリング。
どうしてこれが。
これは、確かに捨てたはずなのに。
バクバクと心臓が音をたてる。嫌な汗が流れる。息が、苦しい。
「………先輩?」
声をかけられ、顔をあげる。後輩の一人が心配そうな顔をしていた。
「どうかしましたか?」
頭を振る。
息を整える。
よく見れば、それは色が似た系統ってだけで全くの別物だった。
「………ちょと思い出しちゃって」
あっと、後輩が顔色を変える。それに微笑みで返した。
「先輩、あの人と仲良かったですもんね」
「行方不明になって、もう三年か」
「確かに、ぬいぐるみ見ると思い出すな」
あの子とは親友だった。
大学のぬいぐるみ同好会で、あの子は誰よりもぬいぐるみ作りが上手だった。あの子の部屋は手作りのぬいぐるみであふれていたし、頼まれれば喜んで作ってあげていた。
あの部屋のぬいぐるみ達はどうなったんだろう。処分されたのか、家族に引き取られたのか。
「クマとか、結構作ってもらってたよね。まだ持ってるの?」
端に座っていた大柄な後輩が、こっくりと頷いた。
「私もまだ持ってる」
「………私も」
作ってもらった子も、作り方を教わってた子も結構いる。
「………何か、ごめんね。せっかくのおめでたい席だったのに」
隣に座っていた友人が、すまなそうに言う。
「ううん。このメンバーで集まったら、あの子の話題になるだろうって思ってたし」
結婚が決まったお祝いとして貰ったぬいぐるみを見下ろす。
本当に、全然違う。
これはウサギだし、あれみたいに縫い目が歪で下手くそな手作りでもない。足の裏の刺繍もないし、何より、
「………これは指輪じゃない」
首のリングに触れ、そっと呟いた。
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