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勝手に拝借した鍵を使って、入り込んだ。玄関にもぬいぐるみが飾られている。
部屋はもっとすごく、大小様々なぬいぐるみが所狭しと置かれている。三花はぬいぐるみそのものが好きというより、作ることが好きなのだ。子供の頃から妹に作ってあげていて、今では手癖になってしまっているそうだ。前に写真を見せて貰ったけど、あまり似てない姉妹だった。
薄暗い中、チラリと隅の作業台を見る。裁縫箱の横に、布がかけられた物があった。また新しく作っていたのか。
それは、すぐに見つかった。
テーブルの上に、一つだけちょこんと置かれたぬいぐるみ。それを手に取る。
とても不格好なぬいぐるみだった。動物ということはわかるが、聞いてなければくまと判別できなかっただろう。首には、確かに指輪がかけられていた。
三花のことは好きだ。幸せになるというなら、喜ばしいことだとも思う。けれど、これの存在だけは何でか許せなかった。彼女が指輪を貰ったという事実だけは、どうしても受け入れがたい。なかったことにしてしまいたかった。
だから私はそれを持ち出した。
ひどく胸が高鳴る。寒いはずの夜道が、やけに熱かった。
橋の上からそれを投げ捨てる。ぽちゃんと小さな水音が響く。気分は異様に高揚していた。
この事を知ったら。どんな反応をするだろうか。怒るかな。悲しむかな。裏切られたと傷つくかもしれない。
三花のことは嫌いじゃない。むしろ好きだ。罪悪感がないわけでもない。それでも、私はそれを捨ててしまいたくて仕方なかったし、彼女の反応を想像して胸が高鳴るのをおさえられなかった。
この時、私はとてもとても幸せだったのだ。
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