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だから今さら返してと言われても困るのだ。もうどこにもないのだから。
大体、何で今さら。
今さら恨んで出てくるなんて。
奇妙な高揚感は、翌日にはきれいに消えていた。後ろめたさから、持っていたぬいぐるみの類いはすべて人に譲ったり売ったりした。見ると、どうしても思い出してしまうから。
恨まれても仕方ないとはわかっている。それでも煩わしくてしょうがない。仕方のないことだったのに。
薬指の指輪を撫でる。チラリとクローゼットに視線を向ける。しばらく悩んで、クローゼットに足を向ける。扉を開こうとしたところで、着信音が鳴り響いた。
ほっと、息をつく。
電話は、何故かクマからだった。
クマも、あの子を見かけたのだという。先日会った場所の近くの公園で。その事で相談したい事があるから、直接会いたいという話だった。
指定されたのはその公園だった。寒さのせいか、人は少ない。どんどん奥へと進み、人気は全くなくなった。そうして、
「なんで……」
待ち合わせの場所には、あの子がいた。
目があうと、そっと微笑む。
どうして。足が止まる。あの子が、ゆっくりと近づいてくる。距離がどんどん縮まる。
「返して」
貸していたものの返却を求めるような、気安い口調。必死に頭を振る。
「どうして?」
三花は、微笑みを浮かべたまま首をかしげる。
「だって、もうないもの。捨てたから」
「どうして?」
なおも三花は近づいてくる。
「どうして捨てたの?私の物なのに。とても大切な」
「だって!仕方ないじゃない!私、悪くない!あんな物貰うあんたが悪いんじゃない!なのに、何で今さら!」
そう。あんな物、存在してちゃいけない。なのにあれの存在を願うなんて。そんなことを願うなら、これも存在しちゃいけない。
「っ!?」
両手を、首に伸ばした。
あの日と同じように。
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