あの日私が捨てたもの

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 きっかけは二年生の時のクラス替えだった。  彼の最初の印象は決して良いものではなかったけれど、かといって悪いわけでもなかった。要するにこれといってなにかしらの気持ちがあったわけでなく、全くもって単なる偶然だった。  しかし、それを運命というのかもしれない。  日を重ねるごとに、私の一日うち、彼のいる時間は増えていた。けれども、私も彼もその気持ちを確かめ合うことはなかった。万が一にでも、この幸せな日々が壊れてしまうことが、私は怖かった。  修学旅行の時、土産物店で偶然見つけたふりをして、彼と一緒に熊の形をしたキーホルダーをおそろいで買った。結局、後にも先にも私が勇気を出したのはこの時が最後だった。  三年生になるとクラスも別れ、学校の廊下や駅でたまに会話をするくらいになった。それにもかかわらず、私の中の彼のいる時間は一向に減ることはなかった。  彼が背負っているカバンについたおそろいのキーホルダーを見て、安心して喜んでいるような―そんなことをしているうちに卒業の日はやってきて、それ以来、私たちが会うことはなくなった。  大学生になってからも彼のことが忘れられず、そのたびに過去の自分を悔やんだ。何度か連絡を取ろうとも思ったけれど、彼には彼の生活があり、私にも好きだと言ってくれる人ができていた。昔のことは忘れても、今だって十分な程に楽しかった。それでもこの熊のキーホルダーを見るたびに、彼のことを思い出してしまってどうしようもなかった。  そんな気持ちから逃れるように、とうとう私はキーホルダーを捨ててしまった。そして彼に対する気持ちもなかったかのように、私の頭の中から離れていった。
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