まるで水のような

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「いや、違うんだ。違うんだよ。まーじーで、違うんだって。ほんと、酒、やめてたんだよ。いやいやいや、飲んでない飲んでない飲んでない。何かさ、風呂入ってたら、シャワーからワイン出てきて、それも赤ワイン。血じゃなくて、赤ワイン。なんか、ワイン風呂とか、金持ちかよっ、てね。全然、そんな余裕ないよ。金? 金の話じゃないよ。酒、酒。俺、酒、やめてるわけだから。やめてるのに酒出てくるとか、まじないでしょ。勘弁してくれよって思って、とりあえずカランに切り替えたわけ。したら、そっちからもワイン出てきて、で、なぜか白ワインなの。わけわかんなくない。上と下から、なんで違う酒出てくるんだよって。まじでパニクるじゃん。ちょっとちょっとちょちょちょちょってなったんだけど、素面なんだから、飲んでるわけじゃないんだから、とにかく落ち着こうと思って、風呂から出たわけ。で、とりあえずうがいでもしてさ、すっきりしようと思うじゃん。それで、蛇口から水出したら、なんかさ。ホントわけわかんないんだけど、それ、酒なわけ。酒だよ、酒。日本酒。まるで水だよー、とか言うじゃん。でも、そんなんじゃなくて、ほんとに水じゃないの。なんで、って思うじゃん、思うじゃんよ。だからさ、多分、去年、流しに捨てた酒が、こう、巡り巡って、ここに戻ってきたのかなー、とか。そういうことって、あるんだなーって。だから、酒飲んでないよ。マジでマジでマジで。で、何」  真っ暗になったモニターに向かって、僕は独り言をまくしたてていた。
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