まるで水のような

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まるで水のような

 蛇口をひねると、シャワーから酒が降り注いだ。  慌ててカランに切り替えたが、もちろん変わらない。赤ワインが白ワインになっただけだ。  酒臭い体のまま風呂から上がり、タオルが赤く染まるのも構わず、酒びたしの体を拭く。久しぶりのワインの匂いに、のぼせてもいないのに、頭がぼうっとする。深呼吸して落ち着こうとするが、むせ返るようなブドウの香りが鼻の奥に広がり、逆効果だ。  とにかく落ち着こうと、洗面所の蛇口をひねった。コップに流れ込むその液体はまるで水にしか見えなかったが、口元まで運んだ時に漂ってきた澄んだ甘い香りは、それが日本酒であることを示していた。  酒をやめてから一年。会社の飲み会は断り続け、合コンはウーロン茶で通し、家では慣れないコーヒーを砂糖で飲み下してきた。  あの日――泥酔して記憶を失くした末に、檻の中で目を覚ました日、身柄を引き取りに来てくれた彼女に別れを告げられた僕は、酒をやめることを誓った。
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