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結局、歩き疲れてしまった私は近くの市民会館の中へ入ることにした。中は冷房が効いていて、建物全体がこれでもかというほどキンキンに冷やされていた。
広い通路の脇に置かれた椅子に腰を下ろすと、ヒヤッとして全身に鳥肌が立った。それでも蒸し暑い外を延々と歩き続けるよりは幾分かマシだった。
しばらくその場でぼうっとしていると、両の目から突然大粒の涙がこぼれ落ちた。悲しいのか不安なのか、それとも怒っているのか、自分でもよくわからなかった。いくつもの感情が折り重なり、私の上にのしかかってきた。
そんな私を心配してか、清掃員のおばさんがお茶をくれた。私はおばさんにすべてを話した。この際、話せるなら誰でも良かった。おばさんは最後まで黙って私の話を聞いていた。そののっぺりした無表情な顔が、なんだか能面のようで少し怖かったのを覚えている。
私がすべて話し終わったあと、おばさんは言った。
「歳をとって体が大きいからって、大人とは限らないのよ。きっとあなたに助けて欲しいんだわ。自分たちじゃ解決できないから」
そうか。私もまだ子供だけど、父も母も子供なんだ。私は思った。もうそれでいいやと。
それから家に帰ってみると、父が酒の匂いを漂わせながら私に突っかかってきた。酒に罪はないが、相変わらず最低な臭いだと思った。
「おい、何で勝手に家を出た?」
私はそんな父の問いに無表情で応じた。
「へぇ、わからないの? じゃ、お母さんに聞いてみれば?」
手も洗わずに二階に上がると母がいた。母も私に話しかけてきた。
「どこへ行ってたの?」
私は言った。
「お父さんに聞きなよ。もし、出来るならね」
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