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「職場にいい人いないの? 新入社員の若い子とかさー! ユー酔い潰して食っちゃえよ!」
「……店のスタッフは殆どあたしより年上のお姉さま方だし、男といえば再雇用のおじさまか、妻子持ちのマネージャーくらいのものよ、姉さん。社員はあたしと店長だけ。店長はほら、あれでしょう?」
「あー、あのビヤ樽みたいな彼ね……。うん、あれは無いわー」
あたしが働く店の店長は同年代の独身なので、確かに狙い目だったのだけど……姉さんが言った通りビヤ樽みたいな体型で間違ってもイケメンではないし、何よりナントカというアイドルグループの熱烈な追っかけなので、一般の女には全く興味が無いらしい。
店長としては優秀なんだけど、ね。残念。
「そういう姉さんの方はどうなのよ? アパレル系なんて、オシャレ男も多いんじゃないの?」
「ウチ? ウチはダメダメ! 若い子はみんなバイトだし離職率高いし。仲良くなる前に居なくなっちゃうって!」
そう言ってガハハと笑う姉さん。なるほど、確かに出会いの場としてはあまりよろしくない職場らしいけど……きっと原因はそれだけじゃないんだろうな。
あたしは姉さんが職場で色々とやらかしていることを察したが、あえて何も言わなかった。優しい妹だもの。
「ってことはアンタ、今フリーなのよね?」
「今どころかずっとフリーですが、それがなにか?」
「ちょっとさぁ……おっ、噂をすれば影、だわ! ――あっちのイケメン二人と、頑張ってお近付きになってみない?」
姉さんが声を潜めながら店の入口の方を指差す。そちらを見やると、なるほど、確かにちょうどイケメン二人が店に入ってきたところだった。私達と同年代くらいに見えるけど……なんかモテそうな雰囲気だ。あれにチャレンジするなんて、我が姉は恐れを知らないな……。
「姉さん。あんなイケメン、女がいるに決まってるでしょ?」
「チッチッチ、甘いな妹よ。観察力不足だよワトソンくん! あの人達、しょっちゅうこの店に来てるけど、一度も女連れだったこと無いのよ!」
「え、そうなの?」
あたしは全く見覚えが無いけど――そっと様子をうかがうと……確かに、バーテンのおじさんとも何やらフランクに話している。明らかに常連の雰囲気だった。
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