とある夜の出来事

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「あんた、昔から周りをあんまり見てないよねー。フロア係としては凄い優秀なのに」 「う、うるさいなぁ! あたしのことは今はいいでしょ? で、お近付きにって言うけどどうするの? バーテンさんに頼んで『あちらのお客様からです』とか言ってカクテル奢るとかするの?」 「それが問題なのよね。はたしてどうやって接触したものやら――」  なんと、我が姉はノープランでイケメンをナンパしようとしていたらしい。  あたしと違って観察力はあるけど、計画性はゼロ……ま、昔からそうなんだけどね。  姉さんとあたしは、双子のくせに全く似てないのだ。容姿も、性格も、得意分野も全然違う。男の趣味だって違う。  ――もしあたし達が二人ではなく一人の人間として生まれていたら、もう少しマシな女になれたのだろうか? そんな益体もないことを考えた、その時だった。 「――あの、隣、いいですか?」  それは、痺れるような激渋ボイスだった。  思わず声の主の方を見やると(きっとあたしはまぬけな顔をしていただろう)、なんとそこには例のイケメン二人組がいた。  明らかに体育会系の出身と分かるようなガッチリした体型と、裏表のなさそうな爽やかな笑顔が眩しいイケメンその一。  背は高いけれども線は細く、どこか中性的で蠱惑的な微笑みをたたえた魔性のイケメンその二。  こうやって近くで見てみると、二人とも本当にイケメンとしか言いようがない。激渋ボイスの持ち主は、どうやら爽やかイケメンの方らしかった。 「え……あ、ああ! どうぞどうぞ!」  姉さんが突然のことにテンパりながらも席をすすめる。何せ、狙おうとしていた獲物が先んじてこちらに近寄ってきたのだ。そりゃあ動揺もするだろう。私なんて声すら出せなかったんだから、テンパリつつも応対できた分、姉さんの方が立派だった。  そのまま、爽やかイケメンはウォッカ・マティーニを、魔性のイケメンはピンク・ダイキリをバーテンさんに頼む。……あらやだ、あたし達と同じようなカクテルを頼むなんて、もしかしてこれは……もしかする?  姉さんが二人に目を付けていたように、イケメン達もあたしと姉さんに……?  ドキドキしながら彼らの次の言葉を待っていると、今度は魔性のイケメンの方がおもむろに口を開いた。こちらは少年みたいに透き通るような美声だ。
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