純喫茶「タバコ」

4/11
前へ
/11ページ
次へ
 シーン、シーンと閑古鳥が鳴き続ける。 和子は退屈のあまり眠たくなってきた自分のためにコーヒーを淹れた。まさか二人目のお客が自分になるとは思わなかった。  一人目のお客のサラリーマンには悪いことをした。「結婚する前は喫茶店を開くのが夢だったんです」と泣き落としてなんとか許してもらうことができた。和子のコーヒーの味を気に入ってくれたのも功を奏した。  店先の大通りの人通りは良く、通行人は後を絶たない。特にお昼時には外食目当てのサラリーマンで賑わい、物珍しげな視線を投げられることもしばしばあった。しかし結局立ち寄って来る人は一人もいなかった。  喫茶店の売上を伸ばすためには、何としてもあの人たちを呼び込まなければいけない。しかし考えてみればタバコもコーヒーもコンビニの守備範囲だ。限られたお昼休みを純喫茶『タバコ』などという得体の知れない店で浪費するくらいならと、コンビニへ足を向けてしまうのももっともな話だ。  やっぱりもっとが喫茶店と分かりやすい名前に変えようかと様々な単語を頭でこねくり回していると、ランドセルを背負った男の子がカウンターの前にやって来た。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加