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「あれ、おばあちゃんじゃないじゃん」
男の子はまじまじと和子の顔を見て行った。
男の子は健太と名乗った。話を聞いてみると、この健太なる少年は通学路がこの店の前だそうで、何度も店先を通っているうちに和子の母と仲良くなったという。最近ではおやつを食べながら学校での話をするというのが日課のようになっていたそうだ。厳格な母の意外な一面を知って和子は驚いた。
「ごめんね。おばあちゃんは今日、病院に行ってるのよ。だからタバコ屋はお休み。今日はお姉ちゃんの喫茶店なのよ」
「なんだぁ、タバコ屋休みなのか。ついてないなぁ」
小学生らしからぬ言葉を言うと、健太は後ろを振り向いた。よく見ると健太のランドセルにしがみつくようにして女の子がいた。なぜ今まで気が付かなかったか不思議なくらい鮮やかな金髪をしている。青い瞳が和子の目と合うと、健太を盾にして隠れてしまった。
「こいつ、最近日本に来たばっかの転校生でさ、俺の家の近くに住んでるみたいなんだよ」
女の子を引き離そうとしながら、健太が言った。
「だから日本語もまだあんまりしゃべれないんだ。早く慣れるように手伝ってあげてねって先生が言うからさ、今ココらへんを紹介してやってんだよ」
「なるほどね。それでココに連れてきておやつでもごちそうしてあげようって思ったわけね」
「そうそう。だからおばちゃん、何かお菓子とか無い?」
「『お姉ちゃん』、でしょ?」
和子はちょっとそこで待つように、と健太にいうと、台所へ入っていった。
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