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持参したクーラーボックスは冷蔵庫の隣に置いてある。和子はその中から二人分取り出した。朝の教訓を生かしていつでも渡せるように予め盛り付けて入れておいたので、お皿もフォークも良く冷えている。
お店に来たときに冷蔵庫や棚の中はちらっと見たが、お菓子らしきものはどこにもなかった。だから喫茶店の商品として用意したものを出すしか手はない。本来ならば一つ五百円は取りたいところだったが、男の子の顔を立てるためだ、背に腹は変えられない。
「はい、おまちどうさま」
和子は二人にシュークリームを手渡した。
昨日、タバコ屋乗っ取り作戦を計画した段階ですぐに作り始めたのだが、急いで作ったにしては上手くできた。シュー生地はオーブンで上手く焼き色が付き、フォークを突き立てるとパリパリと音を立てる。アーモンドパウダーも使っているので風味も良い。カスタードクリームは特別な素材こそ使ってはいないが、アルバイト中にマスター教えてもらった直伝のもの。舌に乗せると卵と牛乳のやさしい甘さが口に広がる。
「あ、うめえ!」
健太はパクパクと口に運ぶ。自信作を褒められ和子も得意になった。
「おばちゃん、コレ、きせーひんってやつ?」
「これは『お姉ちゃん』の手作りよ。本当はお金取るんだけど、今日はこの娘に免じて特別にタダにしてあげるわ」
「マジで?」
「その代わり、食べ終わったらちゃんとこの娘をお家までエスコートしてあげること。いいわね?」
女の子を見ると、すでに完食していた。満足そうにフォークのクリームを舐め取っている。
「ご感想は?」
これで内気な女の子とも打ち解けられるかな、と和子が声をかけると、女の子は空のお皿を返して元気よく言った。
「オカワリッ!」
一体どこでそんな言葉を覚えたというのか。
和子は断ることができずに、結局その後二個ずつおごることになってしまった。
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