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和子は健太たちを見送った。
台所へ行き食器を洗った。出費は思ったよりも大きくなってしまった。しかし彼らが家でこのお店の話をしてくれれば、親御さんたちがやって来てくれるかもしれない。先行投資と思うことにしよう、などと考えていた。
「おーい。ごめんくださーい」
お店の方から声がした。もう連れてきてくれたのかな、和子はわくわくしながらカウンターへと向かった。
健太たちの姿はなかった。変わりにいたのは背中を丸めたおじいさんが一人。一瞬ご新規の方かなと思ったが、おしゃれな茶色い帽子をちょこんとのせた姿には見覚えがあった。
「田中のおじさん!」
「ほっほ、久しぶり。いやあ、大きくなったねぇ」
田中のおじさんは亡くなった父の友人だった。母とも仲が良く、実家にいるときはよくタバコ屋にやって来ては母と談笑しているた。
田中のおじさんは一番のブレンドコーヒーを頼んだ。
「結婚して家を出ていったと聞いてから随分経つねぇ。近くに住んでいるのかい?」
「ええ。そのおかげで店番をさせられることになっちゃったんですけどね」
「はて? とてもタバコ屋店番をしているようには思えんが……」
「ちゃんと『タバコ』という名の喫茶店の店番をしていますよ?」
田中のおじさんは大笑した。
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